カナダの最新診療ガイドライン(CANMAT 2023)鍼灸は薬物療法と併用で、中度までのうつ病に推奨とされています。

カナダの最新診療ガイドライン(CANMAT 2023)では、軽度〜中等度のうつ症状に対して鍼灸は第二選択療法として推奨されています。抗うつ薬と併用した場合に改善率が有意に高まる(相対リスク 1.23, 95%CI 1.10–1.39)と報告されており、複数のメタ解析でも気分・睡眠・疲労感の改善が示されています。

薬や心理療法と並行しながら受けられる、安全性の高い治療法と評価されています。

4〜8回(1〜2か月)を目安に経過を確認しながら治療を進めていきます。

  • 相対リスク 1.23:ある治療(ここでは「抗うつ薬+鍼灸」)を受けた人は、比較対象(抗うつ薬だけ)に比べて 症状が改善する確率が23%高い という意味です。


100人が「抗うつ薬だけ」を飲んだとします。そのうち40人が気分の改善を感じました。
一方で「抗うつ薬+鍼灸」をした100人では、約49人が改善しました。

CANMAT 2023 update(PDF:ガイドライン本文、鍼灸の推奨と解説を含む)Michigan Medicine

 

(鍼灸の効果をまとめた論文)

  • Armour M et al., Acupuncture for depression: A systematic review and meta-analysis (2019) — 鍼灸を通常ケア・偽鍼・薬と比較したメタ解析。鍼は有意差を示すがバイアスの懸念あり。PubMed+1
  • Chan YY et al., The benefit of combined acupuncture and antidepressant medication for depression: a systematic review and meta-analysis (J Affect Disord, 2015) — 抗うつ薬と併用した場合の効果を解析、併用で効果増。PubMed
  • Chen B et al., Efficacy and safety of acupuncture in the treatment of depression(総説/レビュー 2023) — 電気鍼+薬併用などに関する最近のレビュー。Wiley Online Library+1
  • Tan Y et al., Efficacy of acupuncture for depression: systematic review & meta-analysis (2024, Frontiers) — 近年のRCTを含めた比較的新しいメタ解析。Frontiers+1

鍼灸をうつ病治療に取り入れる際の注意点

「鍼灸がうつ症状の改善に役立つ可能性がある」ことが報告されています。
ただし、同時に 「証拠の質がまだ十分に高いとは言えない」 とも明記されています。

現時点では「根拠はあるけれど完璧ではない」そのうえで、安心して受けられる補助療法として鍼灸を活用するのが賢いやり方です。

  • 鍼灸単独
     → 偽鍼(本物そっくりの placebo 鍼)と比べると効果は小さい、という結果もあり、研究の質やばらつきが課題です。
  • 鍼+抗うつ薬の併用
     → Chanらの研究(2015年など)を含め、複数の臨床試験で「抗うつ薬単独より改善率が高い」ことが示され、CANMATでは “補助的に取り入れる価値がある” とされています。
  • Cochraneレビュー(2018年)
     → 「エビデンスの質は低〜非常に低」と評価しており、慎重に“第二選択”の位置づけになっています。

CANMATが参照している代表論文

  • Quah-Smith I, Smith C, Crawford JD, Russell J., Laser acupuncture for depression: a randomised double blind controlled trial (J Affect Disord. 2013;148:179–187) — レーザー鍼のRCT(陽性結果報告)。PubMed+1
  • Sun H. et al., Electroacupuncture vs fluoxetine (J Altern Complement Med. 2013) — 電気鍼とフルオキセチンの比較を含む試験(パイロット/小規模)。(ガイドライン参照文献群に含まれるタイプのRCT) 。jsam.jp+1

解説

  1. CANMATは「複数のメタ解析が鍼灸の有効性を示している」一方で、「偽鍼(sham)対照との比較で効果が小さく、試験の質(バイアス)や異質性が問題」と明記しています。したがって**『推奨』はあるが証拠の質は完璧ではない**、という立場です。Michigan Medicine+1
  2. 特に**「鍼+抗うつ薬の併用」で有望なデータ**が複数あり(Chan 2015 など)、これがCANMATにおける“中等度の補助治療(adjunctive)”推奨の根拠の一部となっています。PubMed
  3. Cochrane(2018)はエビデンスを低品質〜非常に低品質と評価しており、これがCANMATが慎重に“第二選択(second-line)/補助”に位置づけた理由の一つです。コクランライブラリ